『エル・スール』 / 『みつばちのささやき』

ビクトル・エリセ特集で、ひさびさに早稲田松竹へ。

はじめてエリセを観た時は、あまりに穏やかに流れていく荒涼としたスペインの風景に、こんな静かでやさしいスペイン映画もあるんだとびっくりした気がするけど、やっぱり、キラキラしていて、アンバランスで、穏やかな、いい映画だった。

『みつばちのささやき』も、『エル・スール』も、どちらも感受性の強い少女の物語だけれど、続けてみていくうちに、これは憧憬と追憶の普遍的な物語なのだと気づく。彼女の見る淡く儚い景色や、彼女たちの感じるものすべてに、自らの少年少女時代を重ねていくからこそ、見知らぬスペインの風景を見てもなお、懐かしく、あたたかい思いに駆られるのだろう。

もちろん、ここにはスペイン内戦という政治的な背景や、エリセ自身の懐古もあるんだけど、静かに静かに流れていく物語の根底にあるのは、自分の中の、とおい原風景のようなもの。それは内戦以前の世界への懐古であり、精霊への純粋な興味や、少女時代の終りであり、まだ見たことのない南の世界への憧れであり、物静かな父への奇妙な思いでもある。

憧憬は面影に繋がり、重なって歴史や系譜になっていく。言葉にするのが難しい映画だけど、映像も音楽も物語も、観ているうちに不思議と記憶が呼び起され、自分の物語を追体験しているかのような3次元的な感覚があって、ほんとうに不思議なちからをもった映画だと思う。