『おとうと』

山田洋次監督の新作『おとうと』をみにいく。

奇を衒った仕掛けがあるわけでも、予想外の展開が待っているわけでもない。どこの親戚にもひとりはいるであろう、困った人をめぐる家族の物語、というと、ちょっと大きく括りすぎかもしれないけど。まあ、山田洋次作品なのでそんな話。

CGやら3Dやらが全盛の時代にあって、淡々と進む、普遍的な家族の物語は、ちょっと古臭くて、気はずかしくて、なんだか絶滅寸前のもののようにも思える。『おとうと』もたがわず、どちらかといえばリタイヤ世代の映画だと思っていたし、映画がすべての娯楽で、家族がもっと密だったような古き良き時代への憧憬を受け継ぐような物語かと思っていたけれど、見ているうちに、どんどんあったかい気持ちになってきて、ほんとうにするすると、こころがふくらんでいったのだった。

吉永小百合のちょっとした仕草やたたずまいにはっとして、背筋のぴんと伸びた背中にしゃんとして、自分を省みる。まっとうで説教くさい台詞も、ちいさな仕草で多くの感情や季節感や湿度さえ伝える演技も、ただ単にわたしが歳をとっただけなのかもしれないけど(笑)、想像していたよりもずっと素直に受けとめられたし、こんな家族の物語に渇いていたような気さえして、最後はいい余韻が残った。

蒼井優加瀬亮のような、一見ちょっともさくて、カルチャー寄りの俳優さんが、こうゆうコテコテ日本の家族映画に出るっていうのは、実は一番近くて遠いことのような感じがしてしまうのだけど、俳優さんの存在にいざなわれて観たことのないジャンルの映画に足を踏み入れることができるっていうのは、こころたのしい体験。

いびつな時代にあって、まいにちを淡々と、静かにきちんと暮らしていくことのほうがよっぽど大変で、難しいことだったりするし、日々ありふれたふつうの出来事にこそ、励まされたりすることが大いにあるんだよなあとおもう。もっと別の年齢で見ていたら、全然違うふうに見えるんだろうな。温和にあって、平和じゃない、ごつごつした家族の物語。


観にいったのは初日の舞台挨拶で、主要キャストが来てたんだけど、蒼井優がすごーいキレイでびっくりした。かせくんも、坊主にタンガリーシャツでかわいかったなー。会場は、かせ&蒼井優ファンの森ガールと、サユリストが入り混じる不思議な光景で(笑)。吉永小百合さんがしゃきんと美しすぎて、かわいらしくて、すっかりファンになってしまった。たんじゅん。