マザーウォーター

映画『マザーウォーター』みてきました。

いままでのシリーズでいちばん好きかもってくらい、ゆったりとした時間の流れるいい映画でした。へたするといかにも仕掛けました的な流れになったりしちゃうと思うんだけど、小林聡美のウィスキーしか出さないバーも、小泉今日子のコーヒー屋さんの作り込んでない佇まいも、すごく気持ちよく成り立っていて、しゃんと背筋がのびるような、前向きな映画だったな。以下、ネタばれかもなので隠します。


相変わらず、何か特別なことが起こるわけじゃない話なんだけど、今回は脚本がすごくよくて。作り込んでない、シンプルであったかい言葉がいっぱい詰まっていて、じんわりした。ぴとぴと進化していく話とか、そうかあ、変わる季節なのかあってくだりとか、ほとんど哲学とゆうかポエムなんだけど、その感じがうまくしっくりしてて、いいサジ加減。発展途上のひと、ふらふらと流れてきたひと、じっと立ち止まって流れるものをみるひと、定住しながらずっと何かを探し求めている人、それぞれの距離感がカラッとさっぱりしていて、前向きなのでよかったです。

キャストも「かもめ」のひとも「すいか」のひともオールスター全員集合なんだけど、特に永山絢斗くんがすごくよくて、なつにじの時はあまり巧い俳優さんだとは思わなかったけど、ピタッとはまるとこんなにいい存在感なんだな。今までかせりょうが演じていたようなふらふらした迷いびとのようなポジションを、永山くんが未熟さと迷いたっぷりに演じるから、加瀬亮もようやく等身大な年齢のフラヌールを演じられるというか、永山くんをみて、いままでのシリーズのかせりょうに感じていたビミョーな違和感はこれだったのか、と目からウロコだったのでした。いつの間にか若さゆえの迷いだけじゃ成立しなくなっていたんだよね、たぶん。だからこそ、小林聡美演じるセツコとの初めての対等な関係がミョーにしっくりきたし、立派な大人なんだけど、まだなにかくすぶってるおじさん加瀬亮も、すごくよかったです。

京都が舞台っていっても、お寺も観光地もほとんど出てこないんだけど、ふらふら街にとどまった人々の、ふつうの暮らしが描かれてる。鴨川のシーンとか、水汲みのシーンとか、ちょっとした路地裏とか、湿ってるんだけどどこかカラッとした雰囲気がすごく印象に残っていて、さりげない言葉にはっとして。映画館を出た後、街の喧騒を離れて、もう少し世界に浸っていたいような余韻を残しながら、帰り道をぴたぴた歩いた。