スイートリトルライズ

大森南朋ファンのともだちと、目黒シネマに、『スイートリトルライズ』を観にいく。普段あんまり観ない種類の映画だけど、予想以上によくて、おもしろかった。

日々の生活を大切にして丁寧に生きる人形作家の瑠璃子、サラリーマンの聡、はたから見れば絵に描いたような夫婦であるはずのふたりの生活はどこか宙に浮いていて、現実感がない。家に帰れば自分の世界に閉じこもる夫と、ふわふわと日々を暮らす妻。秩序だって整えられた日々の暮らしも、アンティークとレペットのくつに囲まれた生活も、ふたりの間には、静かな隙間と、不思議な孤独が漂っていて、なんだか別の世界のように思える。

中谷美紀の消えてしまいそうな美しさと、大森南朋の醸し出す硬質な色気にぐいぐい惹きこまれて、浮世離れした物語なんだけど、すらすらと観た。ベランダのシーン、どれもよかったなあ。自分とおなじような現実離れした空気感を共有している相手に魅かれていく瑠璃子の気持ちも、瑠璃子とは真逆の、生命感の強い後輩に次第に魅かれていく聡の気持ちも、なんとなくわかってしまうけど、そのもやもやした混沌の中に、ひりひりした現実があって、一見ふわふわ宙に浮いた話なのに、ときどきとてもリアルで、ドキリとするのだ。

矢口監督は、『ストロベリーショートケイクス』も、『3月のライオン』も、痛々しい孤独の話がとても巧いなあと思っていて、狗飼さんの脚本も、個人的にはちょっと苦手な江国香織臭をうまく消化していて、よかった。決して多作じゃないけど、観た後に少し反芻して、ある日、ふと思いだすような心の残り方をする作品を作れるのは、監督として、作品として、すてきな在り方だなあと思う。