トイレット

荻上直子監督の新作だし、なんか見るからにシュールだし、ってことで勇んで出かけてきたんだけど、もう予想以上にぶっとんでおもしろくて、はふはふしながら帰ってきました。もっと秋が深まった頃に見たら、雰囲気出ておもしろいんだろうなあとも思うけど、あの世界観、もうずるいくらい。日本映画なのに、完全にオフビートでカウリスマキ的で。日本映画ってこんなことまでできちゃうんだ、って目からウロコだった。以下、ネタばれしない程度に、個人的な感想など。


過去にある種のマスターピース的な作品を作り上げてしまった監督というのは、その後どうやっていくのだろうと常々思っているのだけれど、荻上監督の場合は、有名な女優も俳優もなしに、予想もしないような、なんともシュールで、ぶっとんだ作品を作ってしまったのだった。その引き出しの多さと、相変わらずシュールでひょうひょうとした作品的なポリシーには、思わずほくほくしてしまう。

日本映画なのに、ぜんぜん日本映画のにおいがしない。出てくるのは外人さんばかりだし、みんな英語しゃべってるし、唯一でてくる日本語は「ばーちゃん」(もたいまさこの役名)と「センセー」(ねこの名前)だけだし、カメラだってフィルムだって外国できれいに映るようなものを使ってるから、日本人の黄色い肌はどうしてもくすんで見えてしまうんだけど、それを以ってしても余りある作品の強さや存在感があって。

ストーリーも、雰囲気も、なんともオフビートというか、決して、万人ウケする作品じゃないと思うけど、クスクス笑って、毒もあって、そのぶっとび具合が尋常じゃなくて、すごいところに着地しているので、すごいなあ、こんなことできちゃうんだなあ、とドキドキ。

2年前のベルリン映画祭で、荻上監督が同席して『めがね』を観た時、日本人特有の閉鎖的なおもしろさだと思っていたもたいまさこの存在感がドイツ人に一番ウケていて、意外な感じがした。監督にもその手ごたえはあったのかもしれない。今回はもたいまさこが唯一の日本人キャストで、それ以外は現地の人という組み合わせで、本当だったら浮きまくるはずなんだけど、そのひょうひょうとした存在感を生かしつつ、もたいまさこが完全に3兄弟のペースに降りてきてしまっていて、その境地に至っちゃったところが、脚本的にも演出的にもやっぱりすごい。

これからまたどんな作品ができるのか、とてもたのしみ。かもめフォローワー的な作品がつづく中で(まあ、それも見ちゃうんだけど)、当の本人は、また別の新しいベクトルに進んでるってところが潔いいし、かっこいいなあとおもう。